
「生活保護」って生活に困ったら、国が助けてくれる制度のことでしょ?

なんとなくは知ってるけど、あまり詳しくは知らないなぁ…
生活保護といえば、ときどきニュースなどでも話題になることがあるので、漠然と「生活に困ったら国からお金が支給される」ことだろうなとは知っている(でも、あんまり詳しくは知らない)という人が多いんじゃないかと思う。

そこまで生活に切羽詰ってないから、自分には関係ないかな
個人的には、できることならお世話になりたい制度ではないのだけれど、人生なんて何が起こるかわからない。
必要な人にとっては…もうまさに今すぐにでも必要な人もいるかもしれない。
でも、「どうすればいいのかわかんない」っていう人のほうがたぶん多いのも事実。
そんでもって、役所に相談に行くハードルってけっこう高かったりするのもわかる。

そこで、元生活保護ケースワーカーのゆずきりんが「生活保護のあれこれ」をなるべくわかりやすく解説するよー
生活保護の受給者へ保護費を支給したり、日常生活を送るうえで必要な相談に乗ったり、自立に向けてサポートする人のこと(※役所の福祉担当課や福祉事務所などで相談援助にあたる職員)
実際に困っている人に届けばいいなと、経験談を含めて「生活保護について」いろいろと解説していきます。
生活保護ってそもそもどんな制度なのよ?


生活するのに必要なお金がもらえるんでしょ???

うんまぁ、そうなんだけど、大事なのは「誰でももらえるわけじゃない」ってとこだよねw
めちゃくちゃ簡単にいうと、誰もが人間らしく生きる権利を保障して、そのためのサポートする制度のひとつ。
小学校の時に授業で習った「基本的人権の尊重」って覚えてるよね?

日本国憲法の中で定められているやつだよね

そうそう、人権っていうみんなが持っている権利は誰も侵すことができないってやつね。
人間が人間らしい生活をするうえで、生まれながらにして持っている権利のことを「基本的人権」という。
例えば、人間はみんな自由に平等に生きる権利をもっていて、それはどんな理由があってもあたりまえに守られなくちゃダメだよねってことが、憲法には書かれている。

人権っていうと、差別しちゃダメとか、そんなイメージが強いけど、人間らしく生きるための権利ってなんだろう

「人間らしい生活をするための権利」って、ものすごくざっくりとした言い方だよね
「誰もが人間らしく生きるための権利」ってなによ?っていうと、そこもちゃんと日本国憲法にいろいろと書かれているのだけど、
生活保護でおもに関係してくるのは、第25条にある「健康で文化的な最低限度の生活」という文言。
日本国憲法第25条第1項の条文には「すべて国民は、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する」とあって…やっぱりざっくりとしてるよねw
生活保護では、この「健康で文化的な最低限度の生活」を保障するっていうのがいちばん基本となるところ。
ちなみに、生活保護は「生活保護法」という法律でいろいろと細かいことが決められているよ。
生活保護法の第1条に、生活保護の目的ってのがあって、そこにはこう書かれている。
「日本国憲法第25条に規定する理念に基き、国が生活に困窮するすべての国民に対し、その困窮の程度に応じ、必要な保護を行い、その最低限度の生活を保障するとともに、その自立を助長すること」
生活保護法第1条より
これがすべてを物語っていて、噛み砕いていうと、
なんらかの事情があって自力で生活するのが難しい国民に対して、困っている程度に応じて最低限度の生活ができるよう必要な援助をして、自分で生活できるようにサポートするのが国の役目だよ
こんな感じになる。
これが生活保護っていう制度(法律)の柱となる部分になるわけね。
憲法と法律ってなにが違う?
憲法は国の中でたったひとつの最高法規で、日本でいうと「日本国憲法」のこと。
国民の自由や権利が国家権力に侵されないように定められたものを憲法と呼ぶのに対して、国が憲法に基づいて国民に課すルールを定めたものが法律。
「自由で平等に生きる権利」という国民が持つ人権は国や社会から守られるべきものなので憲法に定められているけど、「赤信号は止まれ」(道路交通法)みたいに、国民が守ることで秩序が保たれるルールは法律として国が定めている…っていうとなんとなくわかりやすいかな。

「最低限度の生活ができるよう、困っている程度に応じて必要なサポートをする」っていうところを、次はもう少し詳しくみていくね。

健康で文化的な最低限度の生活ってどゆこと?


国が生きるための権利を保障してくれるのはわかったけど、「健康で文化的な最低限度の生活」ってなんだかわかりづらいね…

ものすごく「人間らしい生活」ってイメージはするけどねw
「健康で文化的な最低限度の生活」っていうと、漫画やドラマのタイトルになったから知っている!聞いたことある!読んだことある!観たことある!って人も多いかも。
健康で文化的な最低限度の生活 1 /小学館/柏木ハルコ | ||||
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もうちょっと噛み砕いていくと…
人間が生命を保つために必要なものはなにか、というとまず思い浮かぶのはなんでしょう?

そりゃ、「きちんと食事が摂れる」だとか「住む家がある」だとか…?

食べるものがなかったり、雨風凌げなかったら、死んじゃうかもしんないもんね
まず生きていくためには、住む家があって、食べるものがあって、着る服がある状態っていうのは、最低限必要なものだよね。
そんじゃ、ただただ生命さえ維持できれば、それはたしかに最低限度かもしれないけど、そこさえクリアできればOKなの?っていうと、どうだろう?

心臓が動いて生理的に「生きている」だけじゃ、人間らしい生活だとはいえないかもしれないな…

だから「健康で文化的な」ってのが大事になってくるんだろうね
生命があれば、健康じゃなくてもいいかっていうと、もちろんそんなことはない。
仮に衣食住を手に入れることができたとしても、それが劣悪だったり不潔だったりすると、それは健康上問題がないだろうか。人間らしい生活といえるだろうか。
病気になった場合でも、必要な治療が受けられる状態を含めて、健康でいようとする権利があってこそ、人間らしく生きられるし、健康っていうのは保障されるべきだよね。
あとは、教育が受けられることもそのひとつ。
日本では小・中学校は義務教育にあたるので、国民全員が平等に教育が受けられる権利がある。すなわち、国は教育を受けさせる義務があるということ。

今は、義務教育ではないけど高等学校に通うことも生活保護では保障されているよ(強制ではないけど)
経済的に苦しいという理由で、家がない、食べるものがない…という状態を放っておくと生命の危険があることは目に見えてわかりやすいんだけれど、
- 最低限の衣食住の保障
※最低限とは世間一般的に守られるべき生活水準のレベル - 医療を受ける権利
- 教育を受ける権利の保障
これらも含めて、はじめて「健康で文化的な最低限度の生活」=「人間らしく生きるための権利」っていうのが保障されるっていうことだね。
国は国民全員が「最低限度の生活」ができるようなバックアップをしなさいってことが憲法には書いてある(社会福祉や社会保障の向上、増進に務めなければならない)。
なので、生活保護っていうのは国の義務を果たすための法律でもあるんだよね。
もちろん生活保護法は「法律」なので、国民である生活保護を受ける側の人(受給者)がしなければならない「義務」についてもちゃんと書いてあるよ。(ここでは詳しくは割愛します)

生活保護は「保障してもらえる」っていう「権利」だけじゃないのがミソだね

具体的にどんなことを助けてもらえるのさ?


最低限必要な衣食住や健康や教育を手に入れるためは…

もちろん「お金」が必要ですね!(キッパリ)
当然といえば当然なんだけれど、家を借りるのも、食糧を買うのも、服を買うのにもお金がいる。
病院に行くのだってお金が必要だし、義務教育に授業料などはかからなくても、文具などの学用品を買ったり給食代がかかったり、生活するというのはそれだけでなにかとお金がかかる。
生活保護は現物支給じゃないから、それらを手に入れるために必要なお金が国から支給されるんだけど、それを一般的には「生活保護費」って呼んでるわけね。
※正確には、病院にかかる時のお金は直接病院に支払われるので、受給者はお金を払わなくても医療が受けられる。

生活に必要なお金、家を借りるお金、教育にかかるお金、病院にかかるお金ってそれぞれ計算して支給されるのだよ。

生活に困っている人が国からお金をもらえるっていうのは、そういうことなんだねー
そして、ここでさっきの↓これ↓をもう一回思い出してみよう。
なんらかの事情があって自力で生活するのが難しい国民に対して、困っている程度に応じて最低限度の生活ができるよう必要な援助をして、自分で生活できるようにサポートするのが国の役目だよ

困っている程度に応じて…自力で生活できるようにサポート…

いいところに気がついたね♪
自力では最低限度の生活が厳しい!とひとことに言っても、その困っている程度っていうのは、みんな同じじゃなくて人によって違う。
なので、生活保護で保障されるのは、その困っている状況に合わせて「足りない部分」を保障するっていうのが基本的な考え方になるのね。

例えていうと、年金はもらっているけど、最低生活はできない金額の場合は、その足りない額だけが生活保護費としてもらえるよ。
あと、さっきもチラッと書いたんだけど、生活保護っていうのは最低限の生活さえままならない時には「助けてもらえる」制度なんだけれど、その一方で自力で生活できるように努力することが優先される。

んん?どういうこと???

ざっくりいうと、生活保護でお金もらえるなら頑張らないって人が増えちゃったら困るでしょ?ってこと
生活保護っていうのは、あらゆる手段をつくして頑張っても最低限度の生活が維持できないと判断した場合に支給される。
つまり、逆を返していうと、
自力で頑張ってなんとかなるなら、まず頑張りましょうっていうのが原則。
それは、生活保護を受けた後も、もちろん同じで、自力で生活ができるようにあらゆる手段を尽くすという努力は続けていかなければならない。

一度、生活保護をもらうようになると安心しちゃって「これで生活できるからいいやー」って何もしなくなる人がいるのは事実
そして、国は「がんばれー」っていうだけじゃなくて、自力で生活できるようにサポートする義務があるので、例えば失業中の人なら就職のサポートをしたり、病気の人なら治療に専念できるよう支援したりもする。

生活保護って「困っている人がお金をもらえる」ってだけの制度じゃないんだねー

自分が生活保護を受けられるかどうかって、どうすればわかるの?


素朴な疑問なんだけど…もし生活に困ってて、自分は生活保護を受けられるのかなぁ…って知りたい時はどうすればいいの?

いちばん確実なのは、住んでいる自治体(市役所や区役所の福祉事務所)に聞きにいくことだけど…
その人が生活保護が受けられるかどうかを決めるのは、その人が住んでいる自治体、すなわち市役所や区役所になる。
なので、市役所や区役所の窓口に相談に行って、自分の今の状態を話すのがいちばん確実な答えがもらえる。
…だけど、

えーでも、無理無理って追い返されたりしないのかな…そんなニュースも聞いたことあるけど

相談を受けるのも仕事だから遠慮しなくても大丈夫!
生活保護の相談なんて受け付けてもらえるのだろうか…窓口で追い返されるなんて噂も聞くし、できるなら最終手段というか、あんまり気軽には行きづらいっていうのが正直なところだと思う。
実際に、ニュースなどを見ていると(どこまで真実を報道しているかはさておき)、いまだに水際作戦なんて相談に来た人を追い返しをしているような話を聞いたりすることもある。
いやでも、実際の話、相談に来た人を話も聞かずに追い返すなんてしたことないし、そんな役所があるんだったら大問題なんだけど(怒)。
窓口に行って「生活保護の申請をしたい」と言えば、基本的に役所ではそれを断ることはできない。(ケースワーカー時代は上司から「申請の意思があったら拒否するな」と強く言われていた)

そもそも申請を拒否するのは違法なのです。
ほとんどの人は、生活保護のしくみを理解しているわけじゃないから、まず「申請したいんですけど…」と窓口に来られた場合には、受給の可否に関係するポイントとなりそうな生活状況をある程度聞いて、どうするのが最善かアドバイスをするのが一般的。
今すぐにでも生活保護が必要だと判断したら、そのまま申請の意思を確認して受け付けることもあるし、
まだ今の状況ではちょっと難しそうだなと判断したら、このくらいの状態になった時にもう1回来てください、ということもある。

その人にとって、いちばん最適な方法を話を聞いて考えるのが相談員の仕事だよ。
困り果てて相談にくる人にとっては「早く申請したい!」という気持ちが高まることもあるだろうけれど、申請にはいろんな書類を提出したり、家庭訪問やその他調査で結果通知まで2週間くらいかかる。
その申請期間に困窮状態が確認できなければ、容赦なく却下するしかできないし、その人が困窮するまで待つこともできない。(14日以内に結果を通知することって法律で決まっているのです)
明らかに却下にしかなり得ない時は、今すぐ申請を受け付けるより、受給できそうな段階になってから来てくれた方が確実なので、本人も無駄な労力を使わなくて済むのです。

預貯金があって申請しても却下されるのが明らかな場合には、「貯金が○円以下になったら我慢せずにもっかい来て」とお伝えすることはあった。
もちろん生活保護の受給の可否だけではなく、他にその人が受けられそうな給付の手段がないか考えて提案することもある(そのための知識もケースワーカーには必要)。
面接員やケースワーカーは、相談に来た人にとって最善の方法を提供することなので、本気で生活に困ったら、なるべく早く、まず相談に行ってほしい。
たまに、今日明日食べるものにも困る状態になるまで我慢してからくる人もいるのだけれど…
生活保護って申請しても、今日明日すぐにお金がもらえるわけじゃないからね。
さっき書いたように、決定まで約2週間くらいかかって、そこから支給手続きするので、お金がもらえるまではもうちょっとかかる。
それなら早めに相談に来てもらって、もしその時点ではまだ受給できる状態ではなかったとしても、「手元のお金がこのくらいの状態になったら…」ってアドバイス受けた方がいい。

「受けるためにはどうしたらいいですか?」って質問は答えづらいけど、現状に対してのアドバイスはいくらでも聞いてOK
ぜひぜひ、悩未すぎる前に早めに相談してくださいね!

健康で文化的な最低限度の生活 1 /小学館/柏木ハルコ | ||||
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